無彩色の家



かつて楽園と呼ばれた街


数年前に街は消滅し、名前までもが消えかけようとしている


タイルとステンドグラスの残る家に自然と足が傾く


お茶屋と書かれた屋号に、もはやその意味は無く


どこにでもある住宅としての役割しか果たしてはいない



もう、この街に妓など存在はしない



綺麗に片付けられた客室は、どこか陰鬱な空気が漂っていた


帰り際、階段の窓から光が差し込んでいた


無彩色に輝くステンドグラスはとても綺麗だった






中村の家 3






中村遊廓の歴史については、多くの場所で語られており、今更僕が説明する必要は無い気がする。



急速に消え行くこれらの街の中でも、未だ多くの残像を見ることが出来る。この街を歩き行く者、誰しもが普通の街とは違った空気を感じ取る事が出来るであろう。




かの吉原をも凌いだ大歓楽街の残像がここには残されている。




閉ざされていた部屋の前に立ち、様々な想いが頭の中を駆け巡る。




そして僕は、重たいガラス戸を開けてみた . . . .

















これが我々に与えられた部屋であった . . . .



(つづく)


中村の家 2



今から60年前、どこの街とも同じように大遊廓中村の灯りは消された。多くの家がトルコや旅館に転業する中、この家は当時の姿を変える事無く、学生寮やアパートとして第2の人生を歩んできた。なにせ20部屋以上はある大きな家である。


僕たちに与えられた部屋は2階の一番奥の部屋であった。




廊下の照明は古さ故に漏電の恐れがあり使用する事ができず、日中であるにもかかわらずやたらと暗く感じる。廊下には無造作に物が置かれ、暗さのせいもあり部屋に辿りつくのはなかなか容易ではない。


中庭からの光も行き届かない場所に、その部屋はひっそり位置していた。


閉ざされた戸を見ると、小槌や隠れ笠などが配された福を招く宝尽しの文様が掘り込まれていた。


部屋の戸を開ける前にふと考えてみた . . . .

  

” かつてこの部屋には女が住みついていた ”


” かつてこの部屋には様々な男が出入りしていた ”



その女と男は、この部屋で一夜限りの恋に陥るのだ . . . .



想像は脳裏を膨らませ、ひとつの物語が頭の中で繰り広げらる。


しかし、今はあまりにありきたりなストーリーしか描ける事しかできない。


僕たちは吉祥の描かれた、重い戸を開けてみた . . . .


(つづく)

中村の家 1


とある家との出会いから毎週のように中村へと足を運び続けている。すっかり家の住人とも顔馴染みになってしまった。

特に用事がある訳でもなく、たわいも無い話をする為だけに、自然と足が中村の街へと向いてしまう。

しかし、いつの日も玄関を開けた瞬間だけは、普段では味わう事のない特殊な空気と匂いを感じる事が出来る。

この空気感を言葉で伝える事は難しく、それが一体何なのかはわからない . . . . 。






ある日の事、思いも寄らぬ一言が主人から告げられた


「部屋をひとつ自由に使っていいよ。」


なかなかこの街に入り込む事さえ出来なかった事を考えると、それはあまりにも急展開すぎる出来事であった。


(つづく)